番号ポータビリティの技術「転送方式」と「リダイレクション方式」


携帯電話の番号ポータビリティ(MNP ナンバーポータビリティ)は来年11月1日スタート予定。ユーザーから見ると、電話番号を他社に移すだけの単純作業に見えますが、電話会社からすると少々厄介な問題があります。
今までなら番号の割り当ては会社ごとに決まっていました。たとえば「090-45以下ならNTTドコモ」というように、番号のグループごとに電話会社が決められていたので、そのルールに従って回線を接続したので単純明快でした。
しかし番号ポータビリティが始まると、そうはいきません。番号1つごとに電話会社が異なるため、その度に「これはどこの電話会社だ?」という作業が必要になるからです。電話回線の接続はとても複雑で、NTTだけでなく第二電電と呼ばれていた電話会社、IP電話会社、携帯電話・PHS会社がそれぞれ接続して回線をつなげています。複雑に接続されているため、一定のルールがないと他社への接続ができないのです。インターネットのようにDNS(ドメインネームサーバー)で一括して処理できればいいのですが、新旧取り混ぜてシステムが混在している電話回線ではそう単純ではありません。
そこで番号ポータビリティでは、2つの方法を使って移行後の電話番号を接続します。「転送方式」と「リダイレクション方式」です。

「転送方式」では元のケータイ会社を経由

転送方式とは、元の携帯電話会社にそのまま転送してしまう単純な方法です。

番号ポータビリティ:転送方式

一般電話などから番号ポータビリティで移行したケータイに電話をかけたとしましょう。問題となるのは「中継する電話会社」。ここで「この番号はどこの会社に送ればいいか?」を決めるわけですが、転送方式では前のケータイ会社にそのまま送ります。つまりポータビリティで会社を変えても、回線上は元の会社に送られるのです。
この回線を受けた元の携帯電話会社は、データベースを参照して「こいつは他社へ移ってちまったぜー」として、移行後のケータイ会社へ接続します。これでようやく新しいケータイ会社へつながり、呼出音がなるという流れです。
イメージとしては転送電話や、インターネットのメール転送を考えればいいでしょう。番号ポータビリティで移ったとしても、回線上は元の会社を通じて接続される方式です。

「転送方式」のメリット・デメリット

この転送方式の特徴は、発信元や中継する電話会社の負担がほとんどないこと。番号ポータビリティがなかったものとして元のケータイ会社へ回線を接続するため、今までと同じシステムを利用できます。中継側にとっては楽なシステムです。
ただしケータイ会社にとっては大きな負担です。番号ポータビリティで他社へ移ってしまったユーザーの回線を通さなくてはならないからです。ケータイ会社にとってみると「うちにお金を払ってくれないユーザーの回線をどうして通さなくちゃならんのだ?」ということになります。

「リダイレクション方式」ではルーティング利用

リダイレクション方式とは、経路情報を元に接続する方式。転送方式よりはスマートな方法で、網間リダイレクション方式とも呼ばれています。

番号ポータビリティ:リダイレクション方式

リダイレクション方式では、中継する電話会社が「この番号はお前のものか?」という問い合わせを以前のケータイ会社へ送ります。それに対して以前のケータイ会社は「こいつは別のC社に移ってしまったから、そっちへ送ってちょうだい」という通知を戻します。その上で中継する電話会社は、番号ポータビリティ後のケータイ会社へ回線を接続する、という流れです。
このリダイレクション方式では、回線を以前のケータイ会社へは接続しません。実際に使っている新しいケータイ会社へ直接つなげます。無駄なルートを通らないスマートな方法です。

「リダイレクション方式」のメリット・デメリット

ただし中継する電話会社と以前のケータイ会社との間で、回線の経路情報を交換する必要があります。これをルーティングと言いますが、インターネットでのDNSやルーターがやっていることとほぼ同じです。このルーティングをするには、中継する電話会社の交換機ソフトウェアをすべて入れ替えなければなりません。入れ替えに手間がかかるほか、コストも発生します。コストはケータイ会社側が負担しますが、NTT東日本・西日本などの交換機の作業がいるわけです。
それに対して、ケータイ会社にとっては楽な方法です。ルーティングの情報さえやり取りすればよいので、コストはあまりかかりません。ケータイ会社が歓迎しているのはこの「リダイレクション方式」です。

まずは転送方式、やがてリダイレクション方式へ

ではこの2つの方法のうち、どちらが採用されるのでしょうか。この選択については総務省では決定せずに、電話事業者どうしの個別協議にゆだねることが決まっています。そしてケータイ会社では、「リダイレクション方式」にしたいとNTT東日本・西日本に申し入れており、NTT2社もその準備を始めました。
ただし全国の交換機ソフトウェアを入れ替える必要があるため、すぐには対応できないようです。NTT東日本・西日本の2005年10月18日の発表によると、リダイレクション方式に対応できるのは2007年2月とのこと。それまでは転送方式を使うことになります。

2006年11月:携帯電話ポータビリティ制度スタート
       ↑
      この間は「転送方式」を利用
       ↓
2007年2月:NTT東日本・西日本による「リダイレクション方式」対応完了

おおむね以上のようなスケジュールになりそうです。これはNTT東日本・西日本だけの話で、中継する電話会社は他にもあります。KDDIや日本テレコム(ソフトバンク)、IP電話会社なども該当します。それぞれの会社の対応状況はわかりませんが、全社がいっせいに「リダイレクション方式」にするとは思えません。推測にはなりますが、NTTと同じように「最初は『転送方式』、やがて『リダイレクション方式』にする」という対応になるのではないでしょうか。
そのためケータイ会社では、転送方式とリダイレクション方式を併用できる体制を整える必要があります。加えてリダイレクション方式導入と運用のコストを、ケータイ会社が負担します。


大したコストではないようですが(詳しくは参考サイト参照)、番号ポータビリティによってケータイ会社側(移行前のケータイ会社)のコストが増える、ということだけは覚えておいてもいいでしょう。
ユーザーにとっては目に見えない方式の問題ですが、実施時期や手続きのタイミングにも関係するため、頭の隅に入れておくべきです。
●参考サイト
NTT東日本によるリダイレクション方式の手続き費用
携帯電話の番号ポータビリティ及び一般番号ポータビリティのルーティング番号一括変換に係る接続約款変更認可申請について
転送方式とリダイレクション方式の図
別紙:携帯電話のポータビリティ実現方式

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ITジャーナリスト・三上洋



セキュリティ、携帯電話・スマートフォン、携帯電話料金、ライブメディアのライター・ジャーナリスト。文教大学情報学部非常勤講師
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