フレキシブルノッチは使い物になるか?(PLC高速電力線通信の問題点)


PLC 高速電力線通信では、短波ラジオと同じ周波数を使って、家庭内の電灯線に通信データを流します。そのため電灯線からノイズが漏れ、短波ラジオやアマチュア無線機、市民ラジオのトランシーバーなどに影響が出てしまうのです。
その影響をできるだけ少なくするために、PLCを推進しているメーカーでは大きく分けて二つの対策を考えています。
1:漏れる電波がより少ない方式を使う
2:影響の出る周波数帯での信号をカットする

このうちの2番がノッチと呼ばれるものです。ノッチとはV字型の刻みのこと。下の概念図のように、信号の一部に刻み=信号を減らす部分を作るものです。

ノッチとは?

PLCでは2MHzから30MHzまで周波数を、いっぱいいっぱいに使って信号を流します。これでは短波帯すべてに影響が出てしまうので、特定の周波数帯に限って信号をカット(できるだけ減らす)しましょう、というのがノッチです。
松下電器が開発したPLC用モジュールにもノッチ機能が搭載されています。また日本アマチュア無線連盟(JARL)は「アマチュア無線帯にノッチを入れてくれるのならPLCに同意してもよい」とWebサイトでコメントを出しています。

ではどの周波数帯にノッチを入れるのでしょうか? アマチュア無線バンドですか? 放送バンドですか? それとも航空無線? いや市民ラジオや電波天文の周波数だってあります。もしこれらすべてにノッチを入れたら、PLCは成り立ちません。短波帯には空きは一切ないからです。



そこで考えられたのが「フレキシブルノッチ」です。フレキシブルノッチとは、減衰させる周波数帯をを変えることができる機能。松下電器のPLCモジュールにも搭載されており、今後登場するPLC側モデムの多くに搭載されそうです(OFDM方式のモデムみ可能だと思われる)

しかし大きな問題があります。フレキシブルノッチは誰が操作するのでしょうか? 当然、PLCを導入する家庭のユーザー、またはマンションの管理者ということになります。
フレキシブルノッチを設定するには、パソコンが必要になると思われます。PLCに接続したパソコンでモデム制御ソフトを起動し、ノッチをかける周波数帯を設定するわけです。
このフレキシブルノッチの問題点をあげてみましょう。

問題点:PLCユーザーに「妨害電波を発生させている」という意識があるか?

これが最初の難問。PLCは「妨害電波を発生させる」ということを、ユーザーが理解できるかどうかです。PLCユーザーには、隣の家や隣の部屋に妨害を与えるかもしれない、という意識を持ってもらわなくてはなりません。その意識がないと、フレキシブルノッチの存在価値すらもわからないでしょう。

フレキシブルノッチの問題点

問題点:そもそもパソコンがあるか?

PLCは社会的弱者のネット利用を促進するもの、と言われています。でも高齢者の家にパソコンがありますか? あったしてもソフトを起動してノッチの周波数帯を変える、なんてことができるのでしょうか? ハッキリ言って無理難題です。

問題点:隣の家の人に「ノッチを変えて」と頼めるか?

「いやPLCを入れる家だったらパソコンはあるでしょ?」と言うなら、こんなことを考えてみてください。
『隣の木造家屋でPLCを入れていてノイズ発生中。でもオレは短波ラジオを聴きたい』
この場合は、隣の家に行って「すみませんラジオ聞きたいので、フレキシブルノッチを変えて、これこれの周波数帯をカットしてくれますか?」なんて頼まなくてはいけないのです。そんなことできるでしょうか? PLCを入れた家の人にとっては「なんでオレがそんな面倒なことしなくちゃいけないの?」と思うはず。現実的ではありません。

問題点:マンションの場合はどうするのか?

マンションのような集合住宅では、さらに厄介です。マンション全体の分電盤にPLCの親モデムがあって、全戸にPLCサービスを提供していると考えてみてください。
1階の佐藤さんは短波ラジオを聞いています。2階の鈴木さんはアマチュア無線を楽しんでいます。さてどっちの周波数帯にノッチを入れるのでしょう?


そもそも誰が管理しますか? 管理人が常駐しているマンションなんてごく少数ですし、組合の役員にそんなことを頼めるでしょうか。これも無理ですね。
このようにフレキシブルノッチは、実際に運用させることが難しい機能です。まともに使えれば効果はあるでしょうが、PLCユーザーと短波利用者が別の人であった場合は、トラブルの原因ともなります。
機能としてはよいが、実際にはまったく役に立たない。それが「フレキシブルノッチ」だと筆者は考えています。

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ITジャーナリスト・三上洋



セキュリティ、携帯電話・スマートフォン、携帯電話料金、ライブメディアのライター・ジャーナリスト。文教大学情報学部非常勤講師
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