松下PLCは「屋外へ垂れ流し」「障害窓口ナシ」(電力線通信アダプター発表会後編)

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11月13日発表の松下電器PLCアダプター(高速電力線通信)のレポートを続けます。

前編はこちら→ついにPLC製品登場。12月9日発売、最高速度55Mbps。ただし「壁コンセント直結」で
取材メモはこちら→PLCアダプター発表会速報メモ
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設置方法:工事なしでボタン一つで設定完了

日本初となるPLCアダプターは、個人向けに発売されます。ADSLのようにプロバイダー経由でレンタルする方式が中心になるのかと思いましたが、そうではなく販売店で個人に直接販売する形が中心となります(プロバイダー経由の供給も検討とのコメントあり)。

設定方法はとてもシンプルです。2台のPLCアダプターを同一のコンセントにつなぎ、本体上部にある「SETUP」ボタンを押すだけ。5秒以内に2台のセットアップボタンを押せば、お互いを自動認識し、暗号化処理の設定も自動的に行われます。

つまりパソコンは一切不要。PLCモデムだけで設定ができるようにしています。

PLC セットアップ

高速電力線通信には、最低でも2台のPLCアダプターが必要です。
1台は親機として光・ADSLなどのルーター・モデムにイーサネット(LAN)で接続。
もう1台は使いたい機器、たとえばパソコンに接続するものです。

当初、親機となるPLCアダプターは、ブレーカーのある家庭の分電盤のそばにつけて工事が必要と思われていました。しかし実際にはそんな工事は不要で、100Vのコンセントが来ている部屋ならどこにでも親機を置けます。ネットの回線が来ている部屋、つまりルーターやモデムがある場所なら、どこでもいいわけです。

PLCのしくみ

分電盤フィルターなし!屋外へ垂れ流し

「ふーむ、よくできてるなあ」などと感心して、デモの説明員の方に話を聞いていたのですが…。アレッ?それじゃあおかしい、外への漏洩はどうなっちゃうの? 工事なしってことは分電盤にまったく触らないことになるのか? と思って聞いたところ、

「分電盤にはフィルターを入れません。工事は不要ですから。室内での電源ラインと、屋外から分電盤への引込み線は、同じレベルのPLC信号が流れることになります」

うをををを、なんと外からの100V引込み線にも、PLCの信号がのってしまう! つまり電力線通信の信号が、屋外へ垂れ流しになるのです。
これは衝撃。筆者はずっと外部への信号を遮断するフィルターが必須なのものだと思っていましたが、勘違いでした。屋内で使っているPLCアダプターの信号が、そのまま屋外の100V電源ラインにものります。

垂れ流しです。

隣の家でも使えちゃう? 妨害になることも

それではマンションのお隣さんや、隣の一軒家でも電力線通信が使えることになってしまいます。実際にはアダプター同士をセットアップで認識させる必要があるため、タダ乗りすることはできません。
しかしお互いで了解してしまえば可能です。たとえばマンションのお隣さんと「共同でネット回線を使おう」と了解すれば、アダプターを1台ずつ買えばいいだけのこと。それで簡単に電力線通信でネット接続ができてしまうわけです。

なんせ外部に垂れ流しなんですから。

11/15追記:セキュリティは大丈夫、データ漏洩は心配不要

私の書き方が悪かったため、PLCのセキュリティについて問題があるような読まれてしまっているようです。私のミスです。お詫びするとともに、追記します。

PLCはとてもセキュリティが高いため、たとえ外に信号が漏れていようとも、データ盗聴やネットの勝手利用のようなトラブルは起きません。松下のHD-PLCではAES128bit暗号技術を使っており、現状では解読不可能と言える高度なものです。従来のDES64bit暗号よりも大幅に暗号化が進んでいます。
そのためHD-PLCでは、隣の家や外部からネットが勝手に使われたりデータ盗聴される心配はありません。
それに対して初期の無線LANは、セキュリティに問題がありました。PLCのセキュリティは、無線LANより優れています。

ここで私が問題にしているのは、セキュリティではなく「屋外へ流れる信号によって起きる雑音」の問題です。

最大の問題は漏洩。本当に短波帯に障害は出ないのか?

電力線通信は、総務省の研究会・審議会で「屋内に限定」ということでずっと検討してきました。それなのに、なぜ「信号が(この部分11/15追記)」外部に漏れるようなPLCアダプターが登場しちゃうのでしょうか。型式指定第一号の製品がこれでは、総務省はなにをやっているんだとと怒りたくなります。

デモ説明員のかたに「フィルターなしでは屋外に電波障害を与えるのでは?」と聞いてみたところ、

「短波へのノイズ源として問題となるのは、電力線通信を導入した家庭全体からの漏洩です。屋内を巡っている電源ライン、分岐、スイッチなどが一体となって、短波帯への漏洩が大きくなります。それに対して屋外からの引込み線は、多くの場合ライン一本だけであるので、漏洩による障害を与える可能性は低いでしょう。」

という回答(この説明員の方は若手の技術者風で、実際のPLC開発に携わっていることが伺える)。
これでは短波ラジオも、アマチュア無線も大きな被害を受けそうです。お隣の家から、電力線通信の信号が、もろに漏れてきてしまうからです。
これは大問題というか、大きなトラブルは必至。現在準備が進んでいる電力線通信の差し止め訴訟でも、ここが大きな争点になる可能性があります。

垂れ流し

電波障害発生時の窓口がない!

パナソニックコミュニケーションズのカテゴリーオーナー・小林英次氏に、無線局などへ妨害が出た場合に、申し出る窓口、もしくは調査する部署を作るのか? と聞いたところ、
パナソニックコミュニケーションズ小林英次氏
「PLCについての特別な窓口を作ることは考えていない。通常のサービスで対応します」
とのこと。さらに突っ込むと
「総務省さんで、そのような取り決めができれば、もちろん対応します。」
とコメントしていました。

ちょっと待ってください。電力線通信を検討した電波審議会(会長:羽鳥光俊・中央大学理工学部教授)の答申には
(1)許可に当たって他の通信に妨害を与えないと認めるために,必要な場合は資料提出や実地調査をするなど慎重に審査すること
(2)混信発生時に総務省が即応できる体制を整えること
(3)必要に応じて技術基準を見直すこと
とあります。

妨害発生時のために、総務省が即応できる、つまり総務省内に担当の部署を作らなければなりません。実際には総務省だけでは個別対応できませんから、PLCアダプターを販売したメーカーが直接タッチすることになるはずです。なんの窓口も作らずに、通常のサービスだけで対応できるはずありません。

パナソニックコミュニケーションズ藤吉一義社長

パナソニックコミュニケーションズの藤吉一義社長は、発表会で「ノイズを心配する声あるが、Wavelet OFDMによって特定の周波数への影響をカットしている。既存の無線と共存していきたい」と言っています。
共存したいと言いながらも、障害時の窓口さえ作らない姿勢は一体なんなのでしょうか? 本当に無線局・短波受信者のことを考えていますか?

ノッチはユーザー操作で可変できない

松下電器のPLCアダプターは、wavelet OFDM(ウェーブレットオーエフディーエム)という方式を使っています。この方式は、信号を流す周波数帯を自由に可変できるのが特徴です。一部の周波数帯に「ノッチ(信号の切れ目)」をかけて、妨害を減らすことが可能です(ノッチについては本サイトの記事:フレキシブルノッチは使い物になるか?(PLC高速電力線通信の問題点)をご覧ください)。

wavelet OFDMノッチ

今回の製品ではこのノッチを「アマチュア無線の周波数帯とラジオNIKKEIの周波数に入れている」と松下は発表しています。これで妨害を減らす(実際にどのくらい減るかはまだわからないが…)わけですが、一つ問題があります。

それは他の周波数帯は無視しちゃっていいの?という問題。短波帯に空きはありません。旅客機を誘導する航空無線、漁業無線、海外向け放送、デジタルラジオ、市民無線もあります。今問題となっているNHKの北朝鮮向けの命令放送だって、NHKの海外向け放送・ラジオジャパンが短波帯で放送しているものです。また天文観測では、短波帯の幅広い周波数帯を観測に利用しています。

これらが完全に無視されてしまうのです。

本来、wavelet OFDM方式のノッチは、フレキシブル、つまり自由に変更できるものでした。しかし今回の製品では、固定されてしまっています。説明員のかたに聞いたところ
「パソコンなしで設定できてすぐ使えるようにしています。そのためフレキシブルノッチの変更は、原則としてできません。導入する企業・団体の単位でご要望があれば、検討いたしますが…」
とのこと。ユーザーは自分でフレキシブルノッチを変更できないのです。これではラジオジャパンや航空無線、漁業無線、海外向け放送、デジタルラジオ、市民無線などに、障害を与えてしまう可能性がたかくなります。

ユーザーの利便性のために、せっかくのフレキシブルノッチが殺されているのです。

かなりショックな事態。徹底抗戦!

PLC監視カメラ

松下電器は石油温風暖房機の事故が大きな問題となりましたが、その後に徹底的な周知作戦を行って信頼性を取り戻しています。お客様を大事にする松下幸之助氏の思想が、なんとか保てました。その教訓があるからこそ、今回のPLCアダプターについては、ノイズ問題や漏洩についての細かい配慮があるものと期待していました。

しかし松下電器の姿勢にはガッカリです。短波帯に与えるノイズについて、あまりに無責任な状態で製品を出してきました。特に「外部への垂れ流し」「障害窓口を作らない」「ノッチを固定」という3ポイントは、ユーザーを無視した乱暴すぎる姿勢です。


たぶん大手メディアのほとんどは、この問題に触れないでしょう。PLCアダプターの問題点を知ってもらうために、今後もPLCを追っかけて行きたいと考えています。できれば実際の製品を入手して、どの程度のノイズが出るのが試したいと思っています(了)。
PLCのスピードやアウトラインは、前編をご覧ください。
PLC製品登場。ただし「壁コンセント直結」が前提に(PLC発表会前編)
取材メモはこちら→PLCアダプター発表会速報メモ
PLCアダプター無料配布のリリースはこちら→PLCアダプターをモニターに無料配布:電力系プロバイダ

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ITジャーナリスト・三上洋



セキュリティ、携帯電話・スマートフォン、携帯電話料金、ライブメディアのライター・ジャーナリスト
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