CISPRとは?高速電力線通信の実現性は?


電力線通信
ええと高速電力線通信の記事ですが、今回は(今回も)各サイトさんの受け売りであります。PLC情報のナンバーワンサイト・HF-PLCさんと、いち早くリポートを書いてくださるブログ・電波もようさんを参考にしました(パクリと言わないでインスパイアってことでお許しをください)。

100Vのコンセントで家庭内のネットワーク接続をしようとするのがPLC・高速電力線通信です。なんのシールドもない(保護されてない)電灯線に、短波帯と同じ周波数の信号を流すため、短波ラジオや航空無線、アマチュア無線や電波天文などに影響を与えるほか、医療機器や広帯域ADSLへの妨害も懸念されています。


高速電力線通信の昨年から今年にかけての動きをおおまかにまとめると、
2005年1月 PLCが短波帯に影響を与えるか調べる総務省の研究会スタート
2005年10月 研究会が紛糾したままのため、やむを得ずパブリックコメントに
2005年12月 パブリックコメント結果公表。反対意見・改善意見をほぼ無視
2006年1月 総務省電波審議会へ。CISPR委員会にかけられる
2006年5月 総務省のCISPR委員会が答申を出す見込み?(総務省による)
こんな状況です。ただしCISPR委員会の日程が発表されていないため、本当に5月までに答申が出るのかわからない状況です。

そもそもCISPRとは?

CISPRとは国際無線障害特別委員会のこと。フランス語表記の略で「シスプル」と呼ぶことが多いようです。国際的な電気・電波標準化を行っている国際電気標準会議(IEC)の特別委員会の1つです。
主な目的は、様々な機器から漏れる不要電波(妨害波)について、その許容値と測定法を国際的にまとめること。世界貿易をスムーズにするために、妨害波はこれぐらいならいいですよ、という約束を決める国際機関です。
日本にとって電気製品の輸出は国の生命線でもありますから、CISPRには特に力を入れており、積極的に委員会に参加しています。日本からは主に総務省総合通信基盤局電波部電波環境課と、メーカー等が参加しているEMCC・電波協議会(EMCC・旧不要電波問題対策協議会)から参加しています。
高速電力線通信のシステム・モデムは短波帯に妨害波を出しますから、CISPRで国際的な協議が行われます。高速電力線通信を実現させるには、このCISPRでの協議に沿ったものを作る必要があります。そうしないと海外への輸出が望めないからです。

あれれ?ヨーロッパではPLCが低迷

ところが高速電力線通信が普及しているはずのヨーロッパ各国で、PLCの普及にストップがかかり始めています。
日本でもっともPLC問題を詳しく取上げているウォッチングサイトHF-PLCによると、いち早くPLCを事業化したスペインの電力会社・Endesa社が、PLCの実用化を断念したとのこと。またポルトガルではアマチュア無線への妨害のため、電気通信主官庁がPLCの運用を停止させる事件が起きています。
欧州委員会での討議もストップしており、HF-PLCでレポートを書かれたJR9MFKさんいわく「欧州勢総崩れへ」という状況のようです。HF-PLCではさらにアメリカでのPLC事業にも赤信号がともっていることを取上げています。
こうなってくると国際委員会であるCISPRでの討議もどうなるか微妙で、日本だけが突っ走って許容値・測定法を決め、海外からそっぽを向かれるという事態になりかねません。本来総務省のCISPR委員会は、国際的な取り決めを日本国内の法律・省令にあてはめる作業をする委員会ですが、今回は逆のことをするつもりなのでしょうか。

「今秋実用化へ」の憶測記事にダマされないで

2月の前半に一部のニュースサイトが「高速電力線通信、今秋実用化へ」という記事を流したため、それをフォローするブログ記事も出て混乱しています。正直に言って「今秋実現」は憶測です。総務省の審議会もそうすんなり通るとは思えませんし、海外のPLCの動きがストップしている影響も出てきます。関連記事とサイトをいくつかまとめておきます。


コンセント通じブロードバンド 今夏に制度改正、秋から実用化

フジサンケイ・ビジネスiの記事。電力線通信の実現が秋になる見込み、と書いていますが、同時に無線LANなどがすでにあるため「普及は未知数」ともリポートしています。


米国で始まった電力線ブロードバンド・サービス

エンジニア向け雑誌・EDNアメリカ版の翻訳。高速電力線通信の問題点を鋭く取上げており、採算が取れないであろうと書いています。わかりやすい記事ですので、ぜひご覧下さい。


オフィスでの利用を想定した高速電力線搬送通信(高速PLC)の実証試験の開始について

東京電力による実証試験のプレスリリース。ビル内においてPLC実験を行う。


KLE4cの日記 – 電力線インターネット、先進国のスペインでは

スペインに関するブログ。スペインでのPLCの状況を掲示板のレポートからピックアップしてくれています。「マドリッドとバレンシア合わせて3000件の顧客があり,1Mbpsのサービスを39ユーロで提供しています」とのことですが、3,000件しかないとなると採算は取れていないのではないでしょうか。


世界に先駆けてスタートした香港PowerComの高速200Mbps PLC商用サービス向けに、東洋ネットワークシステムズがPLCシステムを納入開始

こちらはNEC関連会社によるニュースリリース。香港の大手ISPのマンション向けネットワークサービスに、PLCモデムを納入するそうです。初期ロット15,000台とのことで、かなり威勢がいいのですが…。

Powercom
上のリリースで納入されるはずの香港のISP。上のリリースには「大手ISP」となっていますが、これどうも眉唾ものです。Webを見る限り、この会社はPLC専業でやっていくプロバイダーさん。


提供実績として書いているのは二流ホテルのハーバープラザ系だけで、他は表記なし。マンションでのサービスを考えているんでしょうが、PLCのメリットばかり書いていて実際のサービス提供のことを何も書いていません。
香港のコングロマリット・ハチソングループの会社ではあるのですが、果たしてどこまで普及するのか、というか事業として成り立つのかハッキリしていない状況です(ええとWebの受け売りですので、間違いあればご指摘いただけると幸いです)。

電波もよう

BCL・短波放送受信の話題を中心とした楽しいブログ。高速電力線通信の話題をいち早くキャッチしてくれます。それ以外の記事も楽しく読み応えあり。必見です。

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ITジャーナリスト・三上洋



セキュリティ、携帯電話・スマートフォン、携帯電話料金、ライブメディアのライター・ジャーナリスト。文教大学情報学部非常勤講師
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