PLCパブリックコメント実例を紹介します


PLC高速電力線通信のパブリックコメント締め切りまで、あとわずか6日。総務省によるPLC研究会案の是非を問うものですが、パブリックコメントを出さないと無線・短波ラジオ・天文などにノイズを撒き散らす(と思われる)PLCがそのまま通ってしまいます。メールで簡単に提出できますから、ぜひあなたもパブリックコメントを提出してください。詳しい方法は下記をご覧下さい。
高速電力線搬送通信と無線利用との共存条件案に係る意見の募集

このブログを読んでくださっているCさんから、パブリックコメントの実例をメールでいただきました。とてもわかりやすい意見書で、これから書く方の参考になると思いますので、Cさんの許可を頂いて全文掲載することにします。
内容としては「PLCと現在の機器は妨害波によって両立できない」「医療機器への影響が大」「実証実験をシミュレーションで済ませるのは問題」「国際規格・CISPR22の許容値を使うのは適当ではない」という4点でまとめていらっしゃいます。
また書き方も参考になるでしょう。長文のパブリックコメントですが、先頭に「概要」として箇条書きでポイントが書かれています。誰が見てもわかるように、このような概要を付けるのが理想的です。ぜひ参考にしてください。
ご協力いただいたCさんに感謝します。

======以下引用です=====

意見書

2005年 月 日
総務省総合通信基盤局
電波部電波環境課 御中
                    郵便番号
                       (ふりがな)
                    住 所
                       (ふりがな)
                    氏 名
                    電話番号
                    電子メールアドレス

なお、個人としての意見表明であり、プライバシー保護の観点から住所/氏名/電話番号/電子メールアドレス等 個人情報の非開示を強く希望する。

 「高速電力線搬送通信と無線利用との共存条件案に係る意見の募集」に関し、別紙のとおり意見を提出します。

要旨

「高速電力線搬送通信と無線利用との共存について(案)」は技術的な検討が不十分であるため反対である。反対の要旨は以下のとおり。

1. EMC感受性について考慮されていないため、システムが機能しない可能性が否定できない。
2. 医療機器への影響により人命が損なわれる可能性がある。
3. 近電磁界は複雑であり実証試験を経ない議論は無効である。
4. 高速電力線搬送通信(以下 PLC)の特性が考慮されていないため、「パソコン等の情報技術装置に適用される国際規格CISPR22の許容値」の適用は不適当である。

詳細意見

新しい技術の導入に当っては従来技術との適合性を考える必要がある。工学は理論と実証を重んじる学問であり、今回のPLC導入は工学的に大きな誤りを含んでいる。過去、医療機器(超音波診断装置)の開発を約5年、測定機器(LSIテスタ、デジタルオシロスコープ等)の開発を約5年 さらに 航空機及び自動車用機器の開発を通じEMC設計/試験に10年以上係わった技術者として意見を述べる。

感受性の検討

EMCとは日本語で「電磁両立性」と訳され、異なるシステムが相互に運用可能とすることを目的とする。しかしながら、今回の提案は PLCシステムが発生する電磁波のみを取り上げ、PLCの感受性について全く触れられていない。従来システムとして 数1ワットから 数キロワットの設備が存在する。例えば AM放送 短波放送は 数キロワットの電波が利用されている。アマチュア無線等 移動通信は50W程度の電力が利用されている。これらの電力が電灯線に誘起する電圧は 数百Vに及ぶ事が容易に想像される。 一方 PLC通信は広帯域通信であるために 利用する周波数帯の信号を増幅し、AD変換後デジタル演算により周波数分離を行っていると想像される。帯域内の数百ボルトの信号を許容しつつ、通信を行う事は困難と考えられる。PLCシステムの詳細が公表されていないのでここでは以下のように仮定する。
妨害波の電圧: 100V
通信に利用する信号振幅: 10mV
通信に利用するスペクトラムの数:100
通信に必要な個々のスペクトラムに必要なSN比:36dB

妨害波と通信信号の比は 80dB である。
個々のスペクトラムと信号の比は電力が1/100になる為 20dBである。
必要なダイナミックレンジは 80 + 20 + 36 = 136dB である。
理想的なAD変換器のダイナミックレンジは 6 x N + 1.6dB(NはAD変換器のビット数) で表され、136dBを実現する為には 15bitsの理想的なAD変換器が必要となる。信号帯域を30MHzとすると標本化定理から60Ms/sのサンプリングが必要であり、実用的には100Ms/s程度が必要と考えられる。
本計算は理想的な理論計算であり、実際はAD変換器の誤差、信号処理回路の歪 / 混変調歪等を考慮する必要がある。
本内容の技術的な内容については 拙約 CQ出版社 「OP Amp 大全」全5巻 (http://www.cqpub.co.jp/hanbai/series/analogtechnology.htm) に詳細に述べられている。以上の検討からPLCは、現在利用されているシステムと両立しないと考えられる。

医療機器への影響

私は超音波診断装置の開発経験があるが、PLCの信号が当該機器に影響を与える可能性が極めて強いと考えている。
超音波診断装置(以下 USと略す)とはプローブと呼ばれる圧電素子を電気的に駆動し、超音波を体内に発射し、その反射波プローブで受信、信号処理し、体内画像を得る装置である。殆どの産科に備えられているが、肝臓、腎臓、すい臓、胆嚢、心臓、血管等の診断に欠かせない機器で、総合病院で本装置を利用していない病院は恐らく日本ではないと思われる。個人開業医でも外科/内科等で利用されている。詳細については例えば (http://www.gehealthcare.co.jp/rad/us/msujpat.htm )に述べられている。
USが利用する周波数帯域は 0.1MHzから20MHz程度であり、波長が短い つまり 周波数が高い周波数ほど分解能が高い。一方、高い周波数は体内で減衰が多く、肝臓など大きな臓器を見る場合は低い周波数帯の信号が重要となってくる。 そのため 極めて広帯域/高感度で反射波を受信する必要がある。USはダイナミックレンジが重要であり、私が開発に携わっていたとき(約20年前)は 90dBが最小で、一般に 100dBから 110dBのダイナミックレンジを必要とした。当時はログアンプを利用していたが、最近は可変ゲインアンプと高分解能AD変換器が利用されているようである。 ノイズレベルは初段のトランジスタの入力雑音で決定され、数nVから数10nVである。当時 顧客からのクレームで AMラジオ放送の混入が問題となった。AM電波の混入個所はプローブと機器本体の接続ケーブル、プローブ、電源ラインと多種多様であり、近所の放送局の周波数を調べ、その周波数で動作するトラップフィルタ、シールドの追加等で対応した。ご存知のように医療機関は鉄筋の建物である場合が多く、電磁環境としては良好といえる。しかし、このようなクレームは特殊ケースではなかった。
PLCが導入された場合、既存のUSが利用できなくなり、しかも雑音の発生源が特定されない可能性が高い。USは国内だけでも数百万台普及していると思われ、無視することはできない。
さらに、微小信号を扱う医療機器として、心電計、X線装置、MRI等があげられる。X線装置は人体の被爆の危険を避ける為にX線量を低減し、検知器の感度を上げる努力がされている。MRIは水素原子等の共鳴を利用しているため、原子固有の周波数を高感度で受信する必要がある。 MRIの詳細は 例えば(http://www.gehealthcare.co.jp/rad/mri/whats_mr.html )に述べられている。
PLCとこれらの機器との両立性の実証試験が不可欠であると考える。

近磁界の実証試験の必要性

磁界解析のシミュレーションモデルが提案されているが、近磁界は特殊な例を除きシミュレーションできないというのが常識である。近年、やっとプリント回路板上の電磁界がシミュレーションできるようになってきた。ここで、特殊な例とは、周囲環境を理想的な状態に近づけた場合であり、例えば銅板上に機器を設置した場合や、波長に対し、十分距離をおき 自由空間とみなせる場合である。PLCは一般に波長300mから10m程度の周波数を利用するため、この場合には当らない。
さらに、PLCが運用される形態は千差万別。システム数と同じだけケースがある。周囲環境が規定できなければそもそもシミュレーションに必要なパラメータが決定できない。
工学は実証の学問であるから、このような場合は実証試験を行うのが正しい方法である。一般家庭、事務所、工場、医療機関、無線局等、考えられる条件をそれぞれ数種類設定し、実証試験を実施し、その結果から許容値を決定すべきである。
航空機では MIL規格、自動車では JASO等の規格で試験を実施するが、これは実証試験に供することができることの証明であり、実機(車の場合 実車)試験を実施し、影響の有無を確認する。試験は周波数、電磁波の伝達(放射性か伝導性)、輻射か感受性かマトリクス状に試験が適用される。コモンモード電力を決定するだけでは何も規制しないに等しい。

PLCの特殊性

参考としている、「パソコン等の情報技術装置」はそもそも電磁波の輻射を最小とするように設計され、輻射される電磁波は内部クロック、映像信号等のクロックとその高調波に限られている。運用時間も断続的である。その結果、妨害波は特定の周波数(クロックの帯域は一般に数Hz以下)である。
一方、PLCは電磁波を輻射するように設計され、周波数は連続的であり、冷蔵庫等への適用を考えると連続的である。
そのため、他のシステムに与える影響は大きく異なる。周波数が連続的であるために、非妨害側が周波数を変更して、運用を継続することができない。さらに、電灯線の共振周波数で必ず妨害波が存在し、発射する電磁波が小電力であっても、アンテナゲイン倍される。しかも、影響は連続的である。
このような影響の差を考慮しない 案には到底賛成できない。
近磁界の実証試験の必要性でも述べたが、EMCは理論解析の困難さから規格は多岐にわたる試験方法と規格から構成される。試験再現性との戦いの歴史であるとも言える。詳細は 例えばIEC/CISPR規格、MIL規格、JASO規格、ISO規格、SAE規格にゆずるが、「コモンモード電流の許容値及び測定法」のように一部をつまみ食いするのは いままで技術者が築いてきた EMC技術を冒涜するものであり、見逃す事はできない。

以上

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ITジャーナリスト・三上洋



セキュリティ、携帯電話・スマートフォン、携帯電話料金、ライブメディアのライター・ジャーナリスト。文教大学情報学部非常勤講師
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